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小説、銀河鉄道

小説を書くのって難しいですw
ショートショート、作ってみました。
一話完結で、続編はありません(笑)


今の時期 日没は早い。

「あぁ、ラッコの上着を探しに行かなければならない。」

昼光色の蛍光灯の点る独りの部屋の中で、ぼくはふと思った。
身仕度もそこそこにし、中に金色のパスの入った少しくたびれた財布ひとつを手にして、月明かりも街灯も無い駅までの道を歩いた。
トラックの走る国道のガード下をくぐり、シャッターがすべて閉まったさびれた商店街を抜ける。

僕は民家の角を曲がった正面に見える、ホームがひとつだけのうす暗い駅に着いた。家を出てからここまで誰ともすれ違わなかったのと同じように無人の改札口を通った。
暗いホームのベンチでは、女性がひとり列車を待っていた。彼女は ぼくの存在に気付き、視線をぼくに向けた。
そのとき、ぼくの時間が止まったような気がした。
初めて会ったひとなのに、暗がりで良く見えないはずなのに、彼女の瞳はぼくが少年だった頃に空き缶に隠した宝物と同じであるような気がした。

「待ったかい?」
『いいえ、ほんの少し。』

実際にはどう声をかけたのか、何て答えが返ってきたのか もう忘れてしまったけれども、記憶の中ではこのような会話が交わされていたように覚えている。
何十年の間待っていたとしても「ほんの少し」と言うような彼女のことを、鮮明に。


彼女の旅の目的は聞かなかったけれども、行き先はぼくと同じ○×温泉駅だったので、目的地まで一緒に旅をすることにした。
ぼくたちは隣りあわせに座り、窓の外の暗い景色を見るとは無しに眺めていた。窓には、閑散とした客車内に座るぼくたちの姿が映っていたはずなのだけど、ぼくがどれぐらい緊張した面もちで居たかはわからないぐらいにぼくには何も見えていなかった。

彼女はぼくに話しかけてきた。
『○×温泉では、何を?』
「"ラッコの上着"を探しに行くんだ。」
『"トラのパンツ"って、虎の毛皮で出来たパンツなのか、虎に穿かせるパンツなのか、寅さんのステテコなのか、考えれば考えるほど世の中って分からなくなるわ。』
「そこは悩むところではなくて答えは別な所にあって、あれは"トラのパンツ"ではなくて、"鬼のパンツ"だと思っている。」
『そうね、人には過去があって、他の人には知られたくないものなのね。』
「それが見えるものにとってはそのことが苦しい。だから旅に出たくなるんだ。」
『あら、そこは悩むところじゃ無くてよw』

列車は長いトンネルの中を走り続ける。
彼女との会話は、列車のゆるい振動のように心地良い。
いくつもの踏切の警報音を後にしながらも、ぼくたちの会話は途切れることは無かった。
でもこれは、2時間だけの切り取られた時間だった。


○×温泉駅に着き、彼女は行くところがあるとのことだった。
ぼくはぼくのほうで明日の用事があるので、心で会話して多くを理解したうえで、それから先の無いことにも気付いていた彼女と別れた。
ぼくは駅前の観光案内所で今夜の宿を手配した。カニのシーズンにもかかわらず、どのホテルも空室が目立っている。そういえば、数年前に入浴剤問題があったことを思い出した。
徒歩2分で今夜の宿に着く。
少し遅い夕食となったことを詫び、女将にひとつ、ついでのお願いをしておいた。
部屋に入りくつろぐ間もなく、新鮮な魚介類の盛りつけられた豪華な夕食とともに、さきほど頼んでおいたNTTタウンページが運ばれてきた。
数ヶ月前からその存在を知っていた、ラッコの毛皮のコートを製造しているという人物A。カニに舌鼓を打ちつつもぼくはタウンページを繰り、これまで情報でしか知らなかったAがこの地域の電話帳に登録されていることを確認した。思い立った旅で今夜 現実に少し近づき、明日はもっと接近できることを確信した。

食後、ホテルの大浴場に向かった。
浴槽で体を伸ばし、約2時間の列車の旅の疲れを取ることができた。泉質は海が近いこともあって、少し塩分が含まれていた。少し長いめの入浴を終え、部屋に戻った。温泉街にはミュージック劇場もあるにはあるが、胸の奥に鳴り響く遠い汽笛が明日のぼくの目的を思い起こさせ、今夜は就寝することとした。


次の日、ホテルをチェックアウトしたぼくは、温泉街にある市立の共同浴場に行った。
温泉文化は、日本人の世界に誇ることができる文化であると思えるほど、心身ともにリラックスすることができた。湯上りの水分補給には、牛乳では無くコーラを飲むことにした。体の内側からも炭酸を摂取するという算段で。

温泉街から少しバスに乗り、歩いてしばらく行ったところに電話帳に書かれていた住所がある。
その中で連日ラッコの皮を剥ぐ作業が行われている民家風の建物。
ぼくは遠巻きにその民家を眺めた。立ち止まると怪しまれる可能性があるので、目的地があって移動しているような振りをして。
ぼくには、数ヶ月前の仮説がおそらく正しいであろうことが分かった。
ぼくには何もできないし、ここに居るべきでもないと思った。


ぼくの心の旅は終わった。
あれから月日が流れた今、あの日の家から駅までの間と、民家の近傍から家までの間の記憶は失われている。

しばらくして、ラッコの密売業者が逮捕された記事が新聞の片隅に載っていた。保護されたラッコは国際保護条約に従い、北方の海に戻されて幸せに暮らしているとのことである。
気付く気付かないに係わらず時間は悪い方に流れるものではないようだ。
あの彼女の言うとおり、『悩むところ』でも無いのだろう。


その後、一緒に列車に乗った彼女と偶然に街で出会い、カフェでの少し遅いランチタイムが実現した。
ぜひ一度訪れてみたくても行けなかった、以前ラッコという名前の子が働いていたカフェ。
ぼくは、冬の陽の射す窓際の明るい席に彼女と向かい合わせで座ることとなった。
陽光の中で見る彼女は、この世のものとは思えないような美しい輝きと模様のある瞳を持っていた。
あれは、少年の日の輝き、青春の幻影。
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No title

 上手じゃないですか。
 >彼女の瞳はぼくが少年だった頃に空き缶に隠した宝物と同じであるような気がした
 ⇒この表現いいね&いいね。やっぱDILIさんはロマンチック。人それぞれロマンチックな人と全く違う人といるけれど、ロマンチックな人はいつ培われたのでしょうね?

にこまるさん

構想2年3ヵ月、執筆期間4時間。
気力は、2時間で失せました。
後半骨格標本ですw
出来上がったものは、書いた本人にしかわからないブログ記事のようなものになってしまいました。
これを私小説って云うのでしょうか(違っ)

解答用紙(DILI検初段とれますようにw)

感想をひと言で言えば、「村上春樹に似てる」ですw
いったい何が謎なのか分からないような、そして答えのない謎。

>『そうね、人には過去があって、他の人には知られたくないものなのね。』

生まれた瞬間から、人には過去が積み重ねられていく。
やがて十分に年を取り、その過去のうち、知って欲しい部分と知られたくない部分があり、また、ある人にはここまで、またある人にはここまで、という風に意識的無意識的に使い分けしている自分に気付いた瞬間、私はその汚さに愕然とするのです。

>気付く気付かないに係わらず時間は悪い方に流れるものではないようだ。

時間はすべてのものごとを淘汰していくように思います。
どれだけ思慮を重ねようが、もがこうが、世界の大きな流れは変えられることはなく、たとえ自分で選んだもうひとつの流れへ向っているように見えても、流れの先は、切れて無いか、もしくはまた大きな流れに組み込まれるようになっているか。
広く考えて見ると、ものごとに良い悪いの答えは無く、見る角度(視点)、それから流れがあるだけです。
すべてのことが、広い目で見て、良いほうへ流れているだけだと思うのです。

答えの無い問題は苦しいですが、無いものはしょうがない。
無いことを受け入れるか、無理矢理作った答えを正解として生きるかしかないと思うのです。
(小説の意図する感想でないかもしれませんが、お許しをw)

のーさん

>村上春樹に似てる
そ、そうかなぁww
早速、「ノルウェイの森」を買って来ました。
冬休みの宿題にしますw

>>『そうね、人には過去があって、他の人には知られたくないものなのね。』
積み重ねられた過去の結果が今の自分です。相手と接する時は相手の今(と将来)だけを見ていれば良くて、過去は気にするべきではありません。
過去を隠していたつもりでも、相手から見れば過去の情報が今の自分の顔に書いてあるのです。
『そこは悩むところじゃなくてよw』です。
今 産業界では、国主導で根本原因解析(RCA)というものが流行っています。
日本版RCAは日本独自のもので、ある事象に至った要因を考え得る限り抽出し、人的要因に係るものすべての対策系を検討するものです。
過去を根掘り葉掘り探ってピントの外れた対策を考えるシステム、一部の有識者と呼ばれる人達の自己満足の世界です。

>>気付く気付かないに係わらず時間は悪い方に流れるものではないようだ。
世のすべての人が のーさんのような考えを持ってくれれば良いのですけど。
あ、「流される」のではなくて、「許し」ですよw

>答えの無い問題は苦しいですが、無いものはしょうがない。
答えは常にいくつもあって、それが自分の思う通りにならないのが苦しいのです。
今、この辺りをテーマにした構想半年の記事を書こうと思っています。
年内の記事は、これと、年末の挨拶と、2件の予定ですw

No title

>過去を隠していたつもりでも、相手から見れば過去の情報が今の自分の顔に書いてあるのです。
>『そこは悩むところじゃなくてよw』です。

確かに相手のことを見るとき、今と将来が大切です。
過去はその人の顔に書いてあり、私はそれを読んで、相手の今と将来について考えます。
私についても、過去は顔に書いてあるはずだから、わざわざ晒さない自分のずるさに悩まなくても良い・・・ていわれるとほっとする反面、やっぱりずるい気がしてしまうw

あと、前のコメントの補足ですw

「答えが無い」と書いたのは、たった一つの答えは無いという意味です。

「無いことを受け入れるか、無理矢理作った答えを正解として生きるかしかない」というのは、”答えが自分の思う通りにならないこと(複数の答えがあり、そのどれもが正解であり間違いであること、他の人が信じている答えを答えと認めること)を苦しいけれど受け入れて生きていく” か、”1つの答え(例えば常識と言われるものなど)を無理矢理自分の答えと決め、それに忠実に生きていくか” しかないということです。

構想半年の記事、楽しみにしていますw

のーさん

私が以前ブログに書いた、小さい頃苛められていた話とか火事に遭った話、昔の友達の話など、妻には話していませんでした。ブログにも書けないような子どもの頃の悪行の数々も晒していません。
それらは当然、顔に書いてある訳では無いのですが、今の自分を説明するのに有益な情報であったとしても、話すことはありません。
過去を反省した結果が今の自分であって、反省していない過去は今の自分の「言い訳」にしかならず、話をせずとも「顔に書いてある」のです。
反省して、進歩して、相手にふさわしい自分でいようとすることが大切で、過去の告知の有無は二人の繋がりの強さを示す指標では無いと思うのです。
今日起こった出来事を話し合えば良いのです。

>たった一つの答えの無い問題
半年前に書きかけて、まとめることが出来なかったボツ記事があります。
今、改めて記事にしようと試みていますが、所詮はボツ記事。今月にupしたどの記事よりも、たいしたものでは無いと思いますww

それはそうとDILI検模試回答、面談試験になってしまいましたww
ちょっと面白かったので、DILI検初段試験の際は、のーさんの口頭試問は免除させて頂きます。
Secre

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関西在住。平日は北陸方面で単身赴任中。
息子は、父の影響で大の鉄道好き。
用事が無くても電車に乗る。

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